日本の音楽〜受け継がれる和の音階 – ページ 2 – Guidoor Media | ガイドアメディア

日本の音楽〜受け継がれる和の音階

ちょっと珍しい「ニロ抜き音階」って?

ヨナ抜き音階を通して、音階が曲想や雰囲気にいかに影響してくるかが分かったことでしょう。

次はヨナ抜き音階に比べて使われる頻度の少ない、ちょっと珍しい「ニロ抜き音階」をご紹介します。

「ニロ抜き長音階」を聞いてみよう

「ニロ」とは「2」「6」に由来し、その名の通り第2音と第6音を抜きます。

ニロ抜き長音階のスケール

♪C-durのニロ抜き長音階。第2・第6音のレ(D)・ラ(A)が抜けている。
(楽譜画像、MIDIは筆者作)

こちらが「ニロ抜き長音階」です。

あれ、沖縄っぽい…? と思った方。大正解です。
実はニロ抜き長音階は、沖縄の伝統音階「琉球音階」と同じなのです。

このニロ抜き長音階を用いた曲は、「THE 沖縄」の雰囲気を感じられることでしょう。

♪「島人ぬ宝」BEGIN

琉球音階の本場、沖縄県出身の3人組アコースティックバンド・BEGINの「島人ぬ宝(しまんちゅぬたから)」。
伝統楽器・三線の音色と、原風景を思わせる切ない旋律が心に響く名曲です。

♪「海の声」浦島太郎(桐谷健太)

auのCM「三太郎シリーズ」で話題になった浦島太郎(桐谷健太)が歌う「海の声」。BEGINが楽曲提供しました。
ニロ抜き長音階が使われたサビが心にしみますね。

「ニロ抜き短音階」を聞いてみよう

お次は「ニロ」を抜く短音階のご紹介です。

ニロ抜き短音階の楽譜

♪a-moll(Am)のニロ抜き短音階。第2・第6音のシ(B)・ファ(F)が抜けている。(楽譜画像、MIDIは筆者作)

こちらが「ニロ抜き短音階」になります。
同じラ(A)から始まるヨナ抜き短音階と比べて、物悲しさの中にどこか芯の強さを感じる音階になりましたね。

さて、曲の例ですが、ニロ抜き短音階を使用している楽曲自体がかなり少なく、下記に挙げるバンドが唯一作曲に成功したと言っても良いかもしれません。

(ニロ抜き短音階を使用した、あなたのお気に入りの曲があればぜひ教えてください!)

「キリンジ」エイリアンズ

『キリンジ』は実兄弟で結成されたアーティストでした。兄の堀込高樹と弟の堀込泰行の二人構成で1996年に結成され1998年メジャーデビューしました。

2013年には弟の堀込泰行がキリンジを脱退後、兄の堀込高樹がメンバー5人を迎えてバンド「KIRINJI」として再始動しました。2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト「KIRINJI」として、変動的な音楽集団で活動しています。

そんな『キリンジ』の名曲「エイリアンズ」のサビは見事なヨナ抜き音階(ドレミソラしか使っていない)です。短調の曲なのでニロ抜き音階(ラドレミソ)の曲になります。どちらにしろファとシは使われていないですね。

ピアノの黒鍵だけで弾ける曲は、ヨナ抜きもしくはニロ抜きの曲になります。(詳しくはぜひ上記の「ヨナ抜き」「ニロ抜き」の説明を参照してくださると幸いです。)

このキリンジの「エイリアンズ」のサビは、まさに黒鍵だけでメロデイが構成されています。独特の優しく、切ない雰囲気の名曲です。世界的にも人気がある曲で、多くのアーティストによるカバーや、歌ってみた動画もアップされています。

「のん」が歌うエイリアンズ

のん(能年玲奈)のアカペラカバーによる「エイリアンズ」。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の主演を演じ、一躍国民的女優となった彼女の優しく真摯な歌声が強い印象を残します。LINEモバイルCMで使用され大きな話題になったので、耳にしたことがあるという人も多いのではないでしょうか?

「曇天」DOES

日本のスリーピースロックバンド『DOED』(ドーズ)による「曇天」。
この曲は幕末をモデルに描かれた空知英秋の人気少年漫画原作のアニメ、「銀魂」の第5期オープニング主題歌です。

曲全体に使われたニロ抜き短音階が醸し出すやるせない雰囲気と、戦いに身を投じる侍たちの力強さを感じるアニソンです。

「修羅」DOES

こちら「修羅」も同じくアニメ「銀魂」のエンディングテーマで使用されました。
間延びした音形にニロ抜き短音階がマッチして、けだるい中に危険な香りを感じる曲想になっています。

この「曇天」「修羅」の二曲は独特な雰囲気が癖になり、アニメファンからの支持も熱い曲です。

「春よ、来い」松任谷由実

松任谷由実(まつとうや ゆみ)は「ユーミン(Yuming)」の愛称でも親しまれているシンガーソングライターです。1972年に「返事はいらない」でデビューしました。

一度聞くと忘れられないその独特の歌声は数多くの人を魅了し続けています。

テレビで見ていた番組でその声について松任谷さん本人が語っていたエピソードが印象的でした。中学生のころ、初めて聴いた教会で鳴り響くパイプオルガンの音色に、感応し涙が止まらなかったそうです。「その時に、なんかパイプオルガンの音がプリントされちゃった」と話す姿に、あの魅力的な声の理由としてとても納得しました。

『春よ、来い』は、1994年に発表された26枚目になるシングルです。同名のNHK連続テレビ小説の主題歌として使用されました。

「春よ、来い」はサビだけですが、見事なヨナ抜き音階です。でも短調の曲なのでニロ抜き音階の曲となります。

童謡「春よ来い」の一節がサビの繰り返し部分の歌詞に使われており、今も卒業ソングとして人気があります。

あたたかく、そしてどこか切ない名曲ですね。

ちなみに童謡「春よ来い」も見事なヨナ抜き音階です。

終わりに 現代に受け継がれる和のDNA

出典:写真AC

楽譜や音階の解説を通じて、和の音楽に深く探求してきました。皆さんはこの旅をどう感じましたか?理論を理解することで、音楽の鑑賞や作曲の世界が新たな一面で輝くことに気付かれたことでしょう。

この記事では、日本の音楽において古くから受け継がれてきた伝統的な音階の魅力と意義に迫りました。特定の2音を省くことで生まれる独特の響きや、目立たせない微妙な変化が、現代の楽曲にも和のテイストを潜ませていることがわかりました。

そして、この和のDNAが曲の魅力や耳に残る不思議な感覚に深く関わっているのかもしれません。和の風景や情緒が、音楽を通じて私たちの心に届いているのです。

素晴らしい和の旋律に出会い、音楽の世界をより豊かに楽しんでいただければ幸いです。日常に響く旋律が、あなたの心を温かく彩ることを願っています。

執筆:Yo-Ohtaki

17件のコメント

六、七十年代の演歌・歌謡曲は 陰、陽旋法のどちらに属するのでしょうか

曲例、とても参考になりました。ありがとうございます。

ただし、ヨナ抜き音階は厳密には日本の「昔から使われ続ける伝統的」な音階ではございません。明治期に流入した西洋の「ドレミファソラシ」のオクターブ音階と、それまで日本で馴染みのあった5音音階との折衷として作られた音階なのです。
「昔から使われ続ける伝統的」な音階を研究し、それをまとめた小泉文夫という研究者がいます。彼によると、日本の音階は4種類に分けられます。その中の一つがニロ抜き音階で言及されている「琉球音階」です。
琉球音階は、ドミファ/ソシドと分けることができ、ドからファ、ソからド、のそれぞれ4度間で作られる組織を「テトラコルド」と称します。この4度間のどこにもう一音を置くか、によって日本の音階の4種類を分類することができるのです。琉球音階は下(ド/ソ)から長3度に2音目を置いたテトラコルドを重ねたもの、と説明できます。
同様に、下から短3度目に2音目をおいたものを「民謡音階」
    下から長2度目に    〃     「律音階」
    下から短2度目に    〃     「都節音階」
と説明されます。これらが実際「昔から使われ続ける伝統的」な音階だったということができます。例えば筝で演奏される「さくらさくら」は「都節音階」です(ミファラ/シドミ)。
https://www.geidai.ac.jp/labs/koizumi/2017warabeuta_result.html
よろしければこちらもご参照ください。
さしでがましいコメントを失礼いたしました。

初めてコメントします。
ヨナ抜き長音階とニロ抜き短音階は同じ構成音だとの指摘はすでに他の方がコメントなさってますね。
それぞれメジャーペンタトニックスケール、マイナーペンタトニックスケールのことで、ブルース、ジャズなどの洋楽では頻出します。例えばStevie WonderのSir DukeやIsn’t She Lovelyのキメフレーズはメジャーペンタ。ブルースギタリストが弾くフレーズはマイナーペンタに♭5を足したものであることがほとんど。

日本のポップスに、このスケールを最初に(?)取り入れたのが、作曲家の都倉俊一さん(現・文化庁長官)だそうで、ピンクレディーが歌ってヒットしたUFOがその典型例だと、都倉氏自身が何かのインタビューで話していました。(サビや後半で別の音階を使っていますが) 洋楽のテイストを感じる日本歌謡曲だなと思います。

ドレファソラでだけでできている曲に上を向いて歩こうがあります。
なぜ上を向いて歩こうがヒットしたのか私はとても気になっています。
上を向いて歩こうは日本語の曲ですがbillboardで1位を取ったことがあります。その理由として、メロデぃに秘密があるのではないかと私は考えます。主さんはどんなことが隠されていると思いますか??
また、ドレファソラの音にヨナ抜き音階のような名前はありますか??
返信待ってます~(#^^#)

コメントありがとうございます!音楽好きのGuidoorMediaライターです!
コメ主様もおっしゃる通り、実はこの「上を向いて歩こう」も「ドレミソラ」のヨナ抜き音階なんです。
ですので、コメ主様が「ドレファソラ」と書かれたのは、おそらく「ファ」を基点にした「ファソラドレ」の音階で聞かれたのではないかと推察します。
歌い出しの「上を向〜いて」のところを、音階で歌うと「ドドレミドラソ」ではなく「ファファソラファレド」と聞き取られたのではないでしょうか。
ヒットした理由にメロディが関係しているとすれば、やはりこのヨナ抜き音階がオリエンタルで新鮮に聞こえたというのもbillboardで1位を取った要因のひとつだと考えられますね。
これからもGuidoorMediaをよろしくお願いします!

返信ありがとうございます!ライターさんのおかげで、ヨナ抜き音階だということが分かりました!
本当に感謝しかないです!!(#^^#)
質問なのですが、私が見る限りファファソラファレドという楽譜しかネットで見つけられなかったのですが、何かネットで無料で見れるサイトにドドレミドラソという楽譜はありませんか??

本題と逸れまして申し訳ないのですが…

貼り付けられたPerfumeや坂本冬美さんの動画を視聴していましたら、youtube本体へ飛んで聴くより、こちらのサイトのまま再生した方が音量が上がり音質も良く聴き入ってしまいました。

youtube視聴者が同じようなレベルで聴きたいと思ったときの処置方法があればアドバイスをお願いしたいのですが…。

和の音階、ふと思い出し口ずさんでしまうのが不思議です。
EPOさんの「赤い川」は、ニロ抜きでしょうか?

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。コメントいただき誠にありがとうございます。
おっしゃる通り、短音階でのニロ抜きになりますね。
ファとシが抜けているから単純にヨナ抜き音階(ドレミソラ)かと思うも、この曲がマイナーなので「ドレミファソラシ」ではなく「ラシドレミファソラ」で考える必要があり、その2と6(シとファ)を抜いたニロ抜き音階(ラドレミソ)ということになります。
ヨナ抜き長音階「ドレミソラ」とニロ抜き短音階「ラドレミソ」は奇しくも構成音が同じなので、ややこしいですね!

東北の吹奏楽経験者です。ニロ抜き音階の曲は結構あります。
・ドンパン節(秋田県の民謡です)
・チャグチャグ馬コ(岩手県の民謡です)
どちらもDm(ニ短調)で、全ハムのミ(E)とシ♭(B♭)が抜けている事に気がつきました。
(原曲はどちらもニ短調ではないみたいですが、吹奏楽だとニ短調の曲が多く、吹奏楽でアレンジされた楽譜のキーがそれだったので、挙げさせていただきました

他にもアイドルマスター好きの友人から聞きましたが、放課後クライマックスガールズ、というアーティストの「夢咲き after school」という曲もDm(ニ短調)でニロ抜き、だそうです。

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。貴重なご意見ありがとうございます、音楽を少しカジってる別の編集部員です。
民謡や童謡は「ヨナ抜き=ドレミソラ」(短調の曲だとニロ抜き=ラドレミソ)が多いですよね。
「夢咲き after school」という曲もおっしゃる通り、Dm(ニ短調)での「ニロ抜き=レファソラド」と言えますね。
もちろん完全にこの5音のみの構成ではないですが。

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。貴重な情報コメントいただき誠にありがとうございます。
吹奏楽ご経験者の方からコメントいただけ大変嬉しく思います。
掘ればまだまだ出てきそうですね。アイドルマスターの楽曲にまで使われていたなんて驚きです。
また新たな発見ありましたらコメントで教えていただけますと幸いです。
今後もGuidoor Mediaを何卒よろしくお願いいたします。

結構参考にさせていただきました。

千本桜と夜桜お七って、マイナースケールの歌なのでヨナ抜き長音階と言うよりはニロ抜き短音階で説明したほうが良いんじゃないかな? と疑問に思いました。
例えばCのヨナ抜きとAmのニロ抜きって、同じ音になりますよね。そこら辺を詳しく知りたいな〜と思いました。

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。貴重なご意見ありがとうございます、音楽を少しカジってる別の編集部員です。
実は今まで、曲の長調/短調に関係なく、単純に「ドレミソラ」はヨナ抜きだと思っていましたが、確かに短調の曲は当たり前ですがマイナースケールで考える必要がありますね。
そして、メジャーのヨナ抜きとマイナーのニロ抜きが同じ構成音(ドレミソラとラドレミソ)だと今更ながら気づいて、少し興奮しています。
ためになる書き込み、ありがとうございました!

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。コメントありがとうございます!
貴重なご意見ありがとうございます。今後もご期待にそえる記事が執筆できるように努めます。
気になる音楽やアーティストなどがあれば、是非またコメントで教えてください。
これからもGuidoor Mediaを何卒よろしくお願いいたします。

楽譜の画像が見にくいと思います。
天地が小さく横方向に長い。無意味な空白が多いからです。
左右の音符同士の間隔を狭くすると、音符を大きくできますので、見やすくなると思います。

ブラウザで文字サイズのみを大きくした場合、楽譜画像が小さく見えます。
音階や音価を伝えるための画像なので、認識しづらいのは問題です。
フリー素材のイメージ画像や埋め込み動画は、無意味に大きいと思います。小さくても記事に影響はありませんから。
一番上のシアン色255の画像はまぶしくて、これを見て閲覧者はページを閉じます。

ブログの場合、文字と画像で視覚的に情報を伝えるので、視覚的な設計が大事なんです。
どうぞご参考まで。

Guidoor Media | ガイドア メディア編集部です。コメントありがとうございます。
ご指摘いただきました記事を編集いたしました。
楽譜画像を少しでも見やすくなるよう編集し、またクリックで大きな画像も見ていただけるようになりました。
今後ともGuidoor Mediaを何卒よろしくお願いいたします。

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