日本の料理に欠かせない調味料といえば、塩が挙げられます。様々な料理に使われる一般的な塩とは一線を画す、特別な塩が瀬戸内海に浮かぶ小さな島「蒲刈島」(かまがりじま)で生まれています。
「藻塩」(もじお)、「海人の藻塩」(あまびとのもじお)と呼ばれるこの塩は、古くから伝わる製法で作られ、独特のうま味と風味が特長です。
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蒲刈島の「海人の藻塩」
「藻塩」は、蒲刈島の自然豊かな蒲刈町で採れる奇跡の塩として知られています。その歴史は古く、日本古来の製塩方法をたどりながら、独自の製造工程を経て今に至ります。
その結果、正真正銘の国産品である「海人の藻塩」は、多くの料理愛好家に愛され、ジャパンクオリティの象徴として輝いています。
本記事では、藻塩の魅力に迫ります。藻塩が合うおすすめ料理や、蒲刈島の魅力にも触れながら、この特別な塩の生まれ故郷を訪れるような気分に浸っていただけることでしょう。
興味津々の「海人の藻塩」の世界へとご案内いたしますので、ぜひ最後までお楽しみください。
(この記事は過去に掲載された記事を更新し、2023/07/31再公開しました。)
これぞジャパンクオリティ!古くから伝わる「藻塩」づくり
自然豊かな蒲刈町で発見 奇跡の塩
瀬戸内海には数々の島が浮かび、常に美しい景色で私たちを迎えてくれます。
そんな島々のうちの一つ、「蒲刈島」をご存知ですか?
映画「海猿」のロケ地にもなり知る人ぞ知る島は現在「広島県呉市蒲刈町」となっています。
筆者にとってもたくさんの思い出が残るこの島はかつて筆者の祖父母が住んでいて、幼い頃3人の弟たちと電車やフェリーを乗り継いで何度も訪れた懐かしい島です。
2000年に安芸灘大橋が開通してからは蒲刈島へのアクセスが大変便利になり、美しい景色を見ながらサイクリングやドライブを楽しむ人々も増えました。
ジャパンクオリティの記事を書き進めるにあたり、この蒲刈島の「海人の藻塩」についていつかは取り上げたいと個人的に考えていました。
なぜならこの島が生み出す「塩」は今までの塩の美味しさをはるかに超え、その歴史・技術共に世界に誇れるジャパンクオリティだと確信していたからです。
「塩が変わるだけでこんなにも料理がおいしくなるのか!」という新しい発見を皆さんにお届けしたいと思います。
「藻塩」づくりのはじまりと苦労
藻塩づくりの発端は、1984年。
現在では「日本の渚百選」にも選ばれている「県民の浜」の造成工事中に古墳時代の製塩土器が発掘されたことからでした。
この土器の発見をきっかけに「藻塩の会」が発足し、本格的な研究が始まりました。
先陣を切り研究を指導したのは製塩土器の発見者であり、30年以上にわたる考古学の研究を続けてきた故松浦宜秀氏でした。(筆者の祖母曰く松浦氏とは幼馴染だったそうです)
蒲刈町一帯は瀬戸内海の温暖な気候に恵まれ、平安時代から海水を多く含んだこの地は塩田を使った製塩業が大変盛んな土地でした。
しかし実際はさらに昔古墳時代から、日本の塩づくりの原点「藻塩焼き」が存在していたことが土器の発掘によってわかったのです。
しかしその塩づくりに関するヒントはなかなか見つかりませんでした。
製塩土器は見つかったにもかかわらず歴史家たちに尋ねても、口をそろえて「製塩法はわからない」と答えられるばかり。
元を辿れば、塩のつくり方を教えてくれるような歴史書すら見当たらず、松浦氏は途方にくれました。
万葉集に「藻塩」のヒントが…たどり着いた日本古来の製塩方法
そんな中、『万葉集』に「藻塩」という言葉がいくつか登場していることに松浦氏は気づきました。
そしてこの和歌の中に出てくる「玉藻」という言葉から玉のついた藻=「ホンダワラ」であると導き出したのです。
ヒントとなった和歌を見てみましょう。
「名寸隅(なきすみ)の、舟瀬ゆ見ゆる、淡路島、松帆(まつほ)の浦に、朝凪に、玉藻刈りつつ、夕凪に、藻塩焼きつつ、海人娘女、ありとは聞けど、見に行かむ、よしのなければ、ますらをの、心はなしに、手弱女の、思ひたわみて、たもとほり、我れはぞ恋ふる、舟楫をなみ」
意味は、「名寸隅(兵庫県明石市)の船舶からみえる淡路島の松帆の浦に、朝凪には玉藻を刈りとり、夕凪には藻塩を焼いている漁師の娘がいると聞く。その娘たちを見に行くすべがないので、男としての心もなく、か弱い女性のように心が折れて、おなじところを行ったりきたりしながら、私はただ恋い想っているばかり。舟も舵もないのだから。」という美しい歌に藻塩づくりのルーツが隠されていたのです。
(「名寸隅」は現在の兵庫県明石市魚住町から兵庫県明石市大久保町江井島あたりまでの海岸。「松帆の浦」は現在の兵庫県淡路市岩屋松帆の周辺のことだと言われています。)
こうして藻塩の原材料がホンダワラと瀬戸内海の海水だと判明したところから藻塩の製法が結論付けられました。
まず海水に浸したホンダワラを乾燥させ、また海水に浸し、乾燥させ…この工程を何度も行い、塩分濃度の高い「かん水」をつくります。
そしてそのかん水を土器で煮詰めて塩を採るというものでした。
この研究結果は、考古学者からも認められ、蒲刈島の藻塩づくりの礎となっていくのです。
正真正銘国産の「海人の藻塩」
こうして製法が導き出された藻塩は、万葉集にも記録として残されていた魚や貝を採り、藻を焼いて製塩していた「アマビト」や「アマ」と呼ばれる人々にちなんで「海人の藻塩」(あまびとのもじお)として販売されるようになりました。
製塩方法はもちろん古来のものに則り、大量生産に対応するため土器ではなく平釜を10個以上使い、火加減や時間に気を付けながら人の手で丁寧にアクをとり6~8時間煮詰めて生成していくのです。
丹精込めてつくり上げられた「海人の藻塩」は国産のホンダワラと瀬戸内の海水が原材料となっているまさにジャパンクオリティの結晶です。
ホンダワラ特有の自然のベージュ色がそのまま塩の色になっているのも特徴の一つと言えるでしょう。
また、季節によって海水も変化していくので職人たちは常にその変化を感じ取りながら塩づくりに励んでいます。
「海人の藻塩」が合うおすすめ料理!
「海人の藻塩」は他の塩と比べてもカルシウム・カリウム・マグネシウム・ミネラルが豊富で甘みが強く、塩特有のとがったからさが一切感じられないまろやかな口当たりです。
ここでは筆者が実家にいる頃から慣れ親しんできた「海人の藻塩」が、よりうま味を引き出してくれる料理を独断で紹介させていただきます。
「天ぷら」が藻塩でうまみアップ
天ぷらは間違いなく藻塩と相性ばっちりです。衣のサクっとした食感も失わず、野菜が本来持っている甘みとうま味を感じさせてくれます。
「藻塩」は寿司・刺身とも相性抜群!
寿司は醤油でしょう!と思うことなかれ、特に脂ののったサーモンやエンガワ、ホタテなどとの相性抜群です。このお寿司も藻塩と醤油の二刀流で頂きました。
『藻塩』をシンプルに「おにぎり」でいただく
これぞまさにシンプルイズザベスト!藻塩のうま味を一番感じられるのはおにぎりしかない!と言っても過言ではないでしょう。藻塩で握ったお米はさらに甘みが感じられます。
サラダに「藻塩」!野菜と素材の味を引き立たせる
今回は桃をいれたサラダにオリーブオイルと藻塩、バルサミコ酢、コショウで味付けしましたが、これからの時期はイチジクやオレンジを使うのもおすすめです。
果物の爽やかな甘みが一層藻塩によって引き立つでしょう。
他にもお肉料理や魚料理などなど。藻塩の可能性は無限大です。
ご自身に合った藻塩の味わい方をぜひ見つけてみてください。
海人の藻塩の生まれ故郷 広島県「蒲刈島」をもっと知ろう
広島県呉市蒲刈町通称蒲刈島の島内は、下蒲刈と上蒲刈の地域で分けられています。
藻塩づくりの施設や県民の浜があるのが上蒲刈、安芸灘大橋を渡ってすぐの地域が下蒲刈です。
その歴史は古く神后天皇がこの島に立ち寄った際、櫛を落とし、その櫛を探すのに一面に生えている蒲を刈ったという昔話から「蒲刈」という名が付いたと言われています。
みかんやスモモの生産地として有名な上蒲刈
筆者の祖父母が育ったのは上蒲刈です。
上蒲刈は、みかん畑が数多くあり、スモモの生産量でも全国で有数の場所として知られています。
筆者も弟たちを引き連れながら、祖父のトラックの荷台に乗り(今では危ないので決してマネしないでほしいのですが...)みかんの収穫の手伝いをしていました。
ミカン農家の人々は、顔を合わせれば自然と世間話に花が咲きのどかな空気と潮風で思いっきりリフレッシュできるのが上蒲刈の魅力です。
また、県民の浜の海水浴場は都会の海とは比べ物にならないくらい美しく水も冷たいので、ぜひ夏休みを利用して海水浴に出かけるのもおすすめします。
ほかにも天体観測施設や宿泊施設、テニスコートなども揃っているので大人も子供も楽しめるスポットです。
住所 :広島県呉市蒲刈町大浦7605
TEL :0823-66-1177
アートの町としても有名な下蒲刈
写真提供:広島県 「朝鮮通信使再現行列」
今度は下蒲刈を探索してみましょう。
下蒲刈は、自然とレジャーの上蒲刈とはまた違った表情を見せてくれる場所です。
かつて瀬戸内海の交流の重要拠点として栄え、朝鮮通信使や西国大名の寄港地として発展してきました。
そのため、歴史や文化的な施設も多く、アートのまちとしても知られています。
まず足を運んでいただきたいのは「松濤園」です。
美しい庭園と日本の建築技術の美しさを体感できるだけでなく、4つの建物それぞれに貴重なコレクションが展示されている博物館です。
中でも、2017年ユネスコの「世界の記憶」にも認定された世界的に価値の高い『朝鮮人来朝覚備前馳走船行烈図』は古くから日韓の交流が友好的に行われ、文化が根付いていったことがわかる貴重な史料として必見です。
住所:広島県呉市下蒲刈町下島2361番地の7
TEL:0823-65-2900
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)
入館料:大人800円・高校生480円・小中学生320円
無料駐車場:あり(50台)
また松濤園の近くにある「蘭島閣美術館」もぜひ一緒に回っていただきたい場所です。
美術館としては珍しく靴を脱いで鑑賞するため、落ち着いた雰囲気でゆったりと鑑賞することが出来ます。
館内には日本を代表する横山大観、平山郁夫などの作品が約2200点と充実しており、きっと美術が好きな人も満足していただけるのではないかと思います。
住所:広島県呉市下蒲刈町三之瀬200番地の1
TEL:0823-65-3066
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)
入館料:大人500円・高校生300円・小中学生200円
無料駐車場:あり(50台)
藻塩づくりを体験!ジャパンクオリティに触れよう
参照:海人の藻塩公式HP
藻塩の世界をさらに深く知りたい方におすすめなのが、「古代製塩遺跡復元展示館」です。
こちらでは、藻塩に関する貴重な展示を見学することができるだけでなく、実際に土器で藻塩を手作りする体験もできます。
火を使う藻塩づくりでは、安全のためタオルと軍手の着用が必須ですが、自分の手で作った藻塩の香りや味わいを堪能する貴重な体験が待っています。
「古代製塩遺跡復元展示館」で藻塩づくりを楽しんだ後は、藻塩の豊かなうま味がつまった料理を味わいながら、蒲刈島の魅力に浸る時間をお過ごしください。
この小さな島が育んだ「海人の藻塩」は、日本の誇るジャパンクオリティの一つとして、料理愛好家の心を魅了し続けています。
藻塩への興味を持った方は、ぜひ「古代製塩遺跡復元展示館」を訪れ、その魅力に触れてみてください。
自分の手でつくった藻塩の美味しさを実感できることでしょう。蒲刈町の豊かな自然と歴史を感じながら、特別な塩の世界を探求してみてはいかがでしょうか。
住所:広島県呉市蒲刈町大浦7646-3
TEL:0823-66-1040
入館時間:9:00〜16:00(閉館時間 17:00)
筆者;Honami
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